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2006年 03月 09日
トリノオリンピックで日本を代表し、結果を出した金メダリストは荒川選手ただ一人であった。 ![]() NHKテレビ画面を撮影 金メダリストと日本語で書けば、なんとなく金メダルという物にかかわる印象を受けるのではなかろうか。しかし、本来“はナショナルゴールドメダリスト”であり、国家が先につく名称なのである。 海外での冬季五輪としては史上最多の238人(選手112人)を派遣した今回の日本選手団。その結果がメダル1個に終わった。 (参考:Sankei Web「メダル1個に反省の弁 遅塚団長が総括会見」) 選手の数より多く派遣された団体関係者。選手・役員団派遣の経費には税金も使われている。競技のための環境つくりには費用を削るいっぽうで、選手のよりよき育成が出来るはずもないだろうに、団体関係者には惜しみなく出すということだろうか。競技をするのは選手である。サポート体制を充分にせず、メダルの獲得をのみ指令するとすれば、不穏当な話であろう。 「身勝手な大盤振る舞い」といった批判がマスメディアであまり聞かれないのも不思議である。日本選手団の背後にある力関係をチェックし批判する者がいなかったということは、スポーツ界にしてもマスメディアにしてもまことに不甲斐ないという他はない。 ![]() TBSテレビ画面を撮影 ◇ さて今回、日本を背負って世界にうつくしい演技を認めさせた荒川静香選手。2月26日の朝、NHKテレビの画面に出た彼女をカメラに収めたのが上の写真である。 その1 荒川選手が金メダルを首にかけてもらった後、謝意を表している場面。この表彰台に上がる時に、他の二選手は台上の正面前からあがったが、荒川選手のみ後ろに回ってつつましく表彰台に上がった。日本女性のマナーを感じさせるゆかしい場面であった。 その2 ナショナルゴールドメダリストとなった彼女が、国旗掲揚をみつめている場面。2位のアメリカと3位のロシアの国旗の間に、一段と高く日の丸の旗が写っている。 君が代のメロディが流れると、彼女はひとり唇で追い、静かに唱和しているようであった。 ![]() 冬季五輪の公式フラワーとなったツバキ その3 三人のメダリストが手にしているブーケ。ツバキの葉と八重咲きの花がハッキリと写っている。冬季五輪の公式フラワーとなったツバキである。日本原産のツバキはヨーロッパに渡りカメリアジャポニカという学名で普及した。19世紀、北イタリアではツバキはポピュラーな花として人々から愛されているのだ。 ちなみにツバキは日本で「艶がある葉の木」という意味で艶葉木、ツバキと呼ばれるようになったのであるが、このブーケもツバキのつややかな緑の葉を見ることが出来る。 毎日新聞のコラムは、「イタリアのトリノ」とわが国のツバキについて次のように言及している。 「冬季五輪の公式フラワーとなったツバキが、表彰台で渡されるブーケや会場の装飾に使われている」こと。 「トリノ五輪を彩るのは、スイス国境のマッジョーレ湖畔特産のツバキだという。紅白の花と緑の葉がいかにもイタリアを連想させる」 毎日新聞 「余録」 ツバキ たおやめぶり 荒川選手の魅力はなんといっても安定したテクニックを超えた「女性美」であると私は思うが、これは男性女性にかかわらず認める方が多い。テレビから得た情報によれば、遠征先の外国で彼女はノートパソコンを前に自分のホームページへのファンの書き込みを見ていた。 「技術は大事でしょうが、荒川さんらしい美しいスケートを見たいです。」 この言葉に彼女はハッと我に帰り、技術点の点数にはならないイナバウアーを取り入れることを決心したという。 そして彼女は決行した。しなやかに上体を反らせて舞うその時間、観衆の歓声のみが聞こえたと語っていた。まさに美そのものが、審査員の判定までも動かしたのである。 しなやかさ、それはたおやかという言葉と共に日本人の美意識であった。 清少納言が「枕草子」に「萩、いと色ふかう、枝たおやかに咲きたるが」と書いているように、たおやか、しなやかといった風情は日本人が最も大切にしたものである。 今でいうところの「セックスアピール」とは性質を異にしたもので、精神的な意味を持っている。女性をたおやめ、男性をますらお、と呼ぶのは日本ならではのものだ。 本居宣長の「たをやめぶり」や、加茂真淵の「ますらおぶり」といった考え方が古典となっており、たおやめぶりは、「古今集」以降の歌風をいうのに対し、「万葉集」の歌風をますらおぶりとする見方であるという。 それはさておき、日本人の理想として「たおやめ」はしなやかで慈しみ深い佳き女性を指していた。 女性としての資質を充分に自覚し、それを生かしきったのが、荒川選手の演技であった。以下はウェブ上で見かけた世界の反響である。 世界の反響 >欧州のスポーツ専門衛星放送ユーロスポーツのコメンテーターは、 荒川の優勝を「成熟した女性の美を表現した荒川が勝ち取った。経験と成熟に裏付けされた荒川の勝利だ」と語った。 スポーツ紙の「ガゼッタ・デル・スポルト」は、 「新しい女神が生まれた、日本語を話す東洋の女神だ」 i=2006022401388t1>アラカワの演技は「正確さと調和が売り。観客はドガの絵画に入り込んだようだった」と絶賛した。 このほか、市民らからも荒川選手をたたえる声が上がったようだ。「とてもエレガントですばらしい」 品のよい老婦人は「彼女はまるで天使のようだった」と語り、中年の主婦は「うちの子どもはarakawaは魚のようだという」と言って微笑んだそうだ。 まさに、国境を越えて老若男女の別なく、彼女は人々に人間であることの美を、日本の女性「たおやめぶり」の美しさをアッピールしたのであった。 ますらおぶり しかし、私は彼女に「たおやめ」ならぬ強靭な「ますらお」の精神を見た。それはこれまでのたおやめであれば、どこまでも従順な性格であって他との協調を優先するものであったが、彼女はそうした自分に決別した。 >他人と競うのが嫌いで「試合で何番になりたいと考えたこともない。順位のつかないアイスショーで滑りたい」という<のが従来の荒川であった。 スポーツ選手向きの性格ではない彼女を大きく変えたのは、アメリカでの修業であった。 周りに流されてきた自分と決別…。彼女は自己の求めるものに向かって行動するようになる。 >昨年12月にコーチを変え、先月にはフリーの曲を世界選手権で優勝した時の曲で「一番好き」というプッチーニ作曲「トゥーランドット」に変更。周りに流されてきた自分と決別し、自らの意思で動いた。 こうした精神面において、彼女は「たおやめぶり」ではなく、「ますらおぶり」といったほうがふさわしいと私は思う。 米誌スポーツ・イラストレーテッド(電子版)も次のように報じた。 >米ロ両国のライバルの失敗に言及した上で「荒川選手は最も上手にプレッシャーに対処した」と強じんな精神力を賞賛した。 自由演技のために選んだ曲 イタリア人作曲家プッチーニのオペラ「トゥーランドット」。最初決めていた曲を変更して、彼女は自分の意思で決定した。 物語は中国が舞台であるが、「トゥーランドット」の典拠としたのは『千一夜物語』の中ともいわれている。日本のかぐや姫にも共通する謎解きの場面である。 (参考:「トゥーランドット物語の変遷」 香川大学経済論叢」第70巻第2号) ここで彼女が自分でデザインしたコスチュームは、中国風とペルシャの民族衣装をとりいれたデザインであった。荒川選手はデザイナーとしても抜群の才能をみせたことは注目される。しかも彼女のお母さんの製作で見事に母子の共作を成功させた。 これまで指導を受けたコーチを変え、プログラムも自分で考えたという事に、彼女の強い意志を見る思いがする。あらゆる面で論理的に考え、自分自身の意思決定をし、結果を出した。 このことを見ても「たおやめ」というものではなく、「ますらおぶり」といったほうがふさわしいと思われる。 もともと人間は男女の区別はあっても、能力は本来自由だからである。 荒川静香選手に、私は聡明な女性のすがたを見る。そして男性をもしのぐような堅固な経営者の資質を見る。 彼女は現代の日本に、じつに大きい課題を与えたのではなかろうか。 最後に、荒川選手の優姿を取り上げたNBCのスライドショーを紹介して、筆をおく。
by tsubakiwabisuke
| 2006-03-09 16:32
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